2,500年ほどの歴史を持つ喫茶文化は東アジアで盛んだが、三つの大きな流行があった。一つ目は、煎じ薬として煮出していた餅茶。二つ目の流行が餅茶を粉にして淹れた抹茶で8世紀頃から中国で始まり、日本にも仏教と共に入ってきて、12世紀の終わりから徐々に一般人にも広がっていった。中国では14世紀末に皇帝によって抹茶は禁止され、三つ目の流行である葉茶になったが、日本では逆に茶道という様式が確立され、現在まで続いている。そして作られるようになったのが抹茶盌であり、日本固有の文化となっている。掌にのる器であるが、作り手は高台の削りや口縁など、様々な見どころを作り、使い手は器の中に宇宙を感じようとする。日本人にとっての彫刻のような存在で、名盌とされる物は何百年も引き継がれている。
米国の方々がどのように使われるのか興味津々である。フランスの彫刻家に招かれて伺った時、コース料理の最初のスープに抹茶碗が使われ、思わず唸った。抹茶盌は保温性を重視しているので理に適った使い方である。今回制作した茶盌は黒い下地に純金を焼き付け、それを研ぎ出すことで渋く仕上げている。金色の器は通常ハレのものとされるが、侘び寂びの観点からあえてそうした手を加えることで、普段使いにもなる。茶盌のある生活を楽しんで頂きたい。