
快活で、気持ちよく笑う。行動力があって、元気。犬好きで愛情深く、私のしょうもない話にも面倒くさがらずに耳を傾け、ずばっと核心を突いた助言を放ってくれたりする。インタビュー質問にだって、いつも正面から向き合い、全力で正直だ。言葉が、熱い。
知り合って数年になるガラス作家の辻和美さんは、私にとってそういう人であり、安易にひと言で表現するならば「強い人」である。だから辻さんが「ショックだった」と、自身の傷ついた過去を話してくれたときは意外だったし、心がどきりとした。辻さんの、生々しい肉の部分に思いがけず触れたためだろう。


それは12年ほど前のことだという。
とあるフリーマーケットで、知人が出品していた売り物のなかに、辻さんは自分のガラス作品を見つけてしまった。「案外ショックだったんです。その人の生活に私のガラスが入り込まなかったんだな、と知って。作家たるもの、ショックを受けちゃいけないんだけどね。そこから考えが深まって、もしかしたら別の誰かの家でも、お邪魔になっている作品があるのかもしれないな、と思うようになりました」
工房を設立してから十数年。制作しためんちょこ(辻さんのスタンダード作品のひとつ。そばちょこよりもひとまわり大きなグラス)は、ざっと大雑把に見積もっても、何千個、いや何万個にもなる。
「それだけ作ってたら、みんながみんな、いつまでも愛が覚めずに持っているわけがない。人は飽きるものだし、生活環境が変わったり、引っ越ししたりもあるしね。それで“お邪魔になった作品がありましたら、こちらにお戻しください”というのをぶち上げたんです」



グラスや食器などを回収し、工房にあるガラスの廃棄物、たとえば制作で発生した欠片やサンプル、失敗作なんかと一緒に溶かして、再生ガラスにしようと辻さんは考えた。
ならば、と賛同した使い手から「割れてしまったので」と戻ってきた作品もあったりして、再生ガラスプロジェクトがスタート。年に1回(いまは9ヶ月に1回ぐらい)、溶解炉の中にあるガラスを溶かすツボを交換する、“ツボ替え”のタイミングで行うことにした。いざ、ガラスを溶かしてみて意外だったのは、「色」だった、と辻さんは回想する。
「うちの工房は黒のガラスが多いので、全部混ぜて溶かしたら、グレーになるんじゃないかと思ってたんですよ。絵の具と同じでね。でも溶かしてみたら、青だった」
そうしてreclaimed blue(再生する青)シリーズは生まれたのだった。


再生したのは、ガラスだけにあらず。
「リサイクルだからこそ、何か尊いものに変えてやろう」と企んだ辻さんは、李朝時代の磁器などからインスパイアされた形を、青い再生ガラスで表現することにした。reclaimed blue(再生する青)シリーズは、「昔の形を、現代の私が作り直すとどうなるか」という、“形の再生”でもあったのだ。「リサイクルしました、だけじゃ当たり前。プラスアルファで、なにか面白い化学変化が起きないか、と思ったんです」。
単純に青いコップや、めんちょこのリサイクル版を作って終わらないところが、さすが辻さんである。「ひねくれてるから(笑)。やっぱりね、仕掛けたいんですよ」。そう言って笑う辻さんは、やはりアーティストなのだ。「私のガラスはね、器の形をしているけど、作品なんです。人の生活と密着させたいから器の形をとっているだけ。クラフト作家とはそこが違うと思う」


辻さんは、20代の頃からガラスを用いたアートを手がけ、ガラスの器と並行してコンテンポラリーアートに取り組んでいた時期もある。アートと称して「変なもの、わけわからん物をいっぱい作った。そうやって自分からあーっと出たモノは、ゲロでしかないんだよね」。その自分の吐瀉物が、うまく社会と結びつくような方法を考えついたとき、あるいは単なる吐瀉物ではなく、別のなにかに変えることができたときが最大の喜びであり、「それこそがアーティストの仕事だ」と辻さんは言う。そんな自身の制作活動を、とあるインタビュー記事のなかで辻さんは“作品の社会化”と呼んでいる。“作っているものをいかに社会化するか”という自問が、創作のベースにあるのだと。
辻さんは常々「自分のためよりも、人のために作りたい」と口にしている。「作品によって、人の心を癒したい」というのだ。グラスや器が暮らしのなかで実用的に使われるのは、もちろん喜ばしいことだけれど、棚に飾られるだけでも、あるいは「おまもり」として、ただ持っていてもらえるだけでも構わない。どうであれ、「作品がその人にパワーを授けたり、安心感を与えたりできたらいい。私の作品が存在するだけで、なにかの役に立てれば。そう思いながら、ずっと制作しています」。


今回の個展に並ぶのは、李朝の形をキリッと際立たせる深い青から、表面に施された彫り模様が軽妙な薄いブルーまで、青色の幅が広がったreclaimed blue(再生する青)シリーズだ。なかでも、もっとも「今」を象徴しているのは、リライフと名付けられた作品群。仕切りのある壁がけの木箱の左側にはreclaimed blueの作品、右側にはそれと同じ重量のガラス食器が、ぐしゃりと収められている。リサイクル前と後を表現したコンセプチュアルな作品に込められたメッセージは、やはり「再生」。「いっかい壊す。だからこそ新しいものが生まれる。同じところにいちゃいけない。足踏みしていてはだめ。ということ。自分自身がリセットする意味合いも込めて。この作品は、私の生き方でもありますね」。
人生を、もう一度生きる。これからを、生き直す。コロナ後の時代を迎えた私たちへ向けた、辻さんからのそんな力強いメッセージを、ぜひ作品から旺盛に受け取ってほしいと思う。
